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パンダの一日 |
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貴方はパンダが好きでしょうか? たとえば、朝起きたらパンダになっていたとします。 その場合、人はどうするでしょうか。 川井君(仮名)の場合は、パンダになっていた。 何のことはない。寝ている間に、目の回りをマジック・ペンで真っ黒に塗られただけの話です。5名ほどで飲んでいた先日のことでした。ある人物が持ち出したマジック・ペンにより、熟睡中の川井君はあっという間に一頭のパンダに仕立て上げられたのです。 「宴会の席に於いて最初に寝た者は、いかなる刑に処されてもこれを受け入れなければならない」という、国際宴会法第17条第3項の適用された結果でした。
夜を徹して酒と麻雀に興じていた我々をよそに一人眠っていたそのパンダは、正午近くになってようやく目を覚ましました。 両目の周囲は円状に黒く塗りつぶされ、頬にはごていねいに「パンダです」と書かれている。もう一方の頬には「笹が大好き」という一文。どこからどう見てもパンダだった。本物のパンダでさえ、自分がパンダであることをこうも強く自己主張してはいないだろう。 我々4人は、彼を変な目では見なかった。何事もなかったかのような態度で、プレイ途中の麻雀に集中していた。…フリをした。 「11時か」 私が答えると、 「もうそんな時間かぁ」 「腹が減ったな」 「そういえば、タバコもない」 「だれか買ってこい」 他の3人が連鎖的に話を進め、 「寝させてやったんだからお前が買ってこい」 と、起きたばかりのパンダにその役目を押し付けました。実に自然な流れでした。パンダは最初面倒臭そうにしたものの、すぐに折れて買い出し役を引き受けました。 私を含めた4人が、それぞれ弁当や菓子、飲み物等を注文し、必要経費を渡す。だれ一人として、彼の顔に刻まれた烙印について触れる者はいない。もうみんな鬼です。 パンダはあっさりと引き受け、何の躊躇もなく外へ出ていきました。
三十分ほどして、パンダは帰って来た。両手にコンビニの袋を提げて。見ると、その袋が二種類ある。どうしたのかと問う間もなく、パンダは言いました。 「いい弁当がなくてさ。コンビニもう一軒寄ってきたよ」 わざわざ、恥を広範囲に広めてきたようです。そして、それが臨界点だったのか、一人が耐えられなくなったように笑い声を漏らしました。 「どうした? いきなり」 聞いたのはパンダでした。 「な、何でもない。ちょっと、思い出し笑い」 「妙なヤツだな」 それはお前だ、というツッコミを、この瞬間全員が心の中で入れたに違いない。
「ところで、俺の笹ダンゴは?」 「え? そんなもの、頼まれた覚えはないぞ。だいたい、コンビニで売っているか?」 「いや、お前に頼めば手に入ると思ったんだけどなぁ」 「何だそりゃ。この辺に和菓子屋とかあったか?」 「おい、それより俺のパンだ」 「お前は弁当じゃなかったか?」
これだけヒントを出してやってるのだから、いいかげん気付いてくれ。まさか、帰宅するまで気付かないとは思わなかったよ。
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